文芸船

チート勇者のゴールイン

 俺は女神様の手違いで事故死、その代わりにと魔法のチート能力を授けられ、異世界に飛ばされた。ちょいとつらいこともあったが、冒険の仲間には聖女様や女魔道士、女戦士などに囲まれ、ピンチを助けた相手からの敬愛も受け、まあ転生して幸せだ。

 そしてついに魔王を打倒した俺の前に、あの憧れの女神様が再び姿を現した。

「私、女神ピーチの願い通り、遂に魔王を倒してくれましたね。そんな貴方にささやかなお祝いと小さなお願いがあります」

 何ですか、と問いつつピーチ様を眺める。こちらに来て色々な女性と出会ったが、やはりピーチ様は格別だ。その名のとおり清純な桃色の瞳と唇、小柄ですらっとしているというのに肉感的な体つき、身にまとう桃色のドレスも控えめで上品な印象でもう、俺の生きてきた中でも最高の女性だ。

「お祝いの品は、貴方を神に取り立てて神界に住むことを認めること、そしてお願いというのは」

 ピーチ様はもじもじしながら頬を赤らめて言った。

「私とずっと一緒に住んで、一緒にお仕事、してほしいな、とか」

 ピーチ様は俺の頬を優しく撫でてくれる。俺は当然に二つ返事でうなずいた。

 下界の女たちへ別れを告げ、俺はピーチ様と手をつないで神界に上った。雲の上にある神殿で清められ、永遠の命を授けてもらい、俺はピーチ様、今はピーチさんと呼べる仲となりつつ神々が働く神殿に入った。

 そして扉を開けた途端。

「第1024世界、エラー発生。早くバグつぶせ」
「第80世界の老朽化対策予算、底を割ったぞ。大至急で概算額だせ!」
「第10678世界、初期設計からやり直せ! 徹夜続きがどうした? 死んでからゆっくり寝ろ!」
「ゴリアス神、出勤しません! 精神安定剤を一気飲みしたそうです」
「第20087世界から第20153世界を施工した天使の野郎、世界樹の本数を間引きしやがった! 杭打ち部隊を投入だ。俺工事監督行くわ」
「第13世界で外注した大神官の野郎、夜逃げだっ! いきなり悪魔と駆け落ち倒産しやがった畜生!」
「第471世界、魔王討伐失敗しました。勇者追加オーダー入ります。勇者は脆い消耗品! 神々は丈夫な消耗品! まさに気分は天国だあははははははは」

 作業服を着た神々が目を血走らせて走り回っており、机に向かっている神々はそろって目の下に隈がある。ゴミ箱からはユンケル黄帝液の空き瓶とコンビニ弁当の空き殻が溢れて床も薄汚れ、沐香に混じって何日も風呂に入っていないようなすえた臭いが漂っていた。

「ピーチ様、あの、これは」

 振り向くと女神ピーチは扉を絶対切れない神鎖で縛り上げていた。そして慌てて最高に素敵な笑顔で言う。

「ピーチ、って言っていいんだよ。愛してる。だから一緒にお仕事、頑張ろうね」

 慌てて後ずさると、俺の背中を誰かが支えた。

「君がピーチ君の認めた新神かね。君と結婚したいと言うから結婚退職は認めないと言ったが、なかなか丈夫そうな新人獲得になって良かったわい」

 最高神エルが白い髭をしごきながら俺の肩に手をかける。

「まさかピーチ君を今さら見捨てはしないよな。もう三十年間、一睡もせずに仕事している恋人の仕事を肩代わりする。それでこそ勇者だろう」

 ピーチがドレスから作業服に着替え、聖水を手から噴出させて顔を洗う。洗った後の顔は、相変わらずの美貌に微かなそばかすがあって、少し幼い感じがむしろかわいらしい。だがくっきりと浮いた目の下の隈が余計に痛々しい。

 ピーチは席に着くと最高級のユンケルスターを開けて一息に飲み、机の上にある「神殿前メンタルクリニック」と書かれた袋から薬草を取り出してはみはみ嚙んで涙を浮かべた。

「ごめんね。忙しいからかな、最近ちょっと精神不安定なの。でも嬉しいよ。あと五十年働き続ければ、三日はハネムーンに行けるから」

「ちょっと待てよ、仕事って何だよこのブラックは」

「神々は少子化で手が足りないの。それに先輩たち、次々と堕天したり心の病で邪神になっちゃったり。貴方が一緒に住んでくれるって、一緒に働いてくれるって言ってくれてうれしかった」

 住む、という言葉とともにピーチが目を向けた先には、桃色の薄汚れた寝袋と俺の身長に合わせた真新しい寝袋が並んであってぞくりとする。ピーチは書類の束を俺の脇に積み上げると、俺を抱きしめて口づけ、最高の笑顔を浮かべた。

「神々の世界が果てるまで、貴方を絶対に離さないよ」

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