YAMANO ltd.は、十年で奇跡的な成長を遂げた総合エンターテインメント企業である。音楽配信、出版、映画を総合的に制作する独特のシステムは「YAMANO Method」としてハリウッドでも高く評価され、ウォール街では安全株として認知されている。
この巨大企業を支配するのは女性社長、山野葵である。学生時代に所属した映画研でのノウハウを元に海外映画の買い付けからここまでの巨大企業を成長させた。彼女の優秀さはその商品を見極める才能もさることながら、なんといっても高いコスト意識である。現在のYAMANO ltd.にとっての課題は、後継者がどこまで山野氏の経営法を継承できるかにかかっている。
「ひまわり国際映画祭」は十周年を迎え、国際的評価も高い。そこで今年「名作を求めて〜埋もれた自主制作映画〜」と題して、地方テレビ局、高校、大学の映画研から数多くのフィルムが出展される。
とくに高校・大学の部では映画祭職員が直接学校に出向いて傑作を発掘するため、一流監督の学生時代のフィルムなども既に発見され、資料的価値が高い作品も上映される模様である。またコンテストには不向きとしてお蔵入りしていた作品や、その先進性故に理解されなかった不遇の作品なども散見している。
今回の企画にはYAMANO ltd.の山野社長も全面的に協力しており、業界ではその動向が注目されている。
先日、本学OGである山野葵女史が来校した。特別講義「エンターテインメント産業の新展開」には数多くの学生が聴講し、大講堂でも立ち見が出るほどであった。
講義終了後、山野女史は本来の目的である「名作を求めて〜埋もれた自主制作映画〜」用のフィルム審査に向かった。その状況は残念ながら秘密審査とのことで取材は許可されなかった。しかし女史が審査途中で退席し、残りの審査員のみで審査を続けたことは確認された。原因は不明だが、女史に近い情報では「学生時代のトラウマに触れたため」という。
山野社長(YAMANO ltd.)、ひまわり国際映画祭欠席の意向。理由はノーコメント。不祥事のフィルムか?
ひまわり国際映画祭の翌日、社長突然の辞任に揺れるYAMANO ltd.
YAMANO ltd.代表取締役社長、山野葵氏が辞任を表明した。会長、顧問などへの就任はなく、完全に引退する意向である。第三四半期におけるYAMANO ltd.の財務状況は良好で、第四四半期利益も最高益を予定している。また不祥事の噂もなく不可解な辞任である。
「ひまわり映画祭・名作を求めて〜埋もれた自主制作映画〜」最高賞受賞作監督は二十年前に死亡していた。それも学生映画研による作品である。ところが、この作品に意外な人物がヒロインを演じていた。それは先日突然の辞任を表明したYE社前社長山野葵である。
この件についてインタビューしたところ、ヒロインは山野葵本人との事実をインターホン越しに確認した。
激撮! YAMANO ltd.前社長の隠れ家! 株を手放して映画機材を揃える奇行にYAMANO ltd.社員も呆れ顔?
山野の勘違い? お前は商売してろ! 山野前YAMANO ltd.社長が自主制作映画をクランクイン。舐めきった態度に映画界はカンカン?
「お客は来るの?」
「来なくて良いよ。純な映画、撮りたいんだ」
「純って?」
「優しくって純な葵を映像にしたい」
「何、恥ずかしいこと言ってるの」
「ほんとのことだろ」
「……本気?」
「もちろん」
「キスも、他も知ってる私だよ」
「でも、映画には純情なままだろ」
「ねえ、キスして」
「はあ?」
「なんだか、淋しい。あなたがいなくなりそうで怖い」
「いつまでもいるよ」
「約束ね」
自主制作映画「純」(山野あおい監督)上映決定
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