文芸船

雨空とスカート

 僕は駅前で真美が来るのを待っていた。せっかく久しぶりに同窓の真美と会うというのにぐずついた天気だ。僕は空模様に時折目をやりながら、真美が下りるはずのバス停を見つめていた。

 待ち合わせを二十分ほど過ぎた頃、雨がやっと上がった。それを待っていたかのように、真美が反対側の道路から手を振りながら僕の方に駆けてくる。バスの時間じゃないよな、不思議に思って訊くと、送ってもらったの、と言葉を濁し、黙れとばかりに僕の口へ飴玉を放り込んだ。

「スカートなんて珍しいな」

 問いかけると真美は当然の顔で雨空を傘で指した。僕が首を傾げると、スカート履いたことあるわけないか、と笑って目の前の水溜りを傘の先で掻き回す。

 真美はいつまでもぼんやりしている僕の横に並ぶと足を踏み出した。こんなに小さかったっけ、と彼女を見つめる。真美は僕の視線を勘違いしたのか、場違いな服装に気づいたときのような表情でそっとスカートを持ち上げた。ふくらはぎの辺りについた数滴の泥が目につく。

 自分のスラックスに目を向ける。足にまとわり付くのが気持ち悪い。真美の足元が軽快に見え、彼女が今日スカートにした意味がわかった。だが真美は僕の脚をじっと見つめる。何だよ、と言うと真美は溜息をついて言った。

「君、ジーンズばっかだったのにね」

 就職するまではジーンズ以外のズボンをほとんど持っていなかったことを言われて思い出す。苦笑すると、真美は僕のネクタイに手を伸ばしてきた。そっと持ち上げると軽く撫で、力が抜けたように再び手を下げる。唇を小さく噛み、ぽつっ、と彼女は言った。

「結婚、するかもしれない」

 突然の言葉に僕は真美を見つめ返す。真美は口を小さく開けたが、すぐに閉じてそっぽを向いてしまった。僕は手を伸ばしかけ、すぐに慌てて引き戻す。もう、真美に手を伸ばしちゃいけない。真美は気づいているのか肩を小さく揺らし、それでも黙り込んだままだ。

「おめでと」

 いかにもとってつけた台詞。言わなければ良かったと後悔する。でも、今はこの言葉しか。この言葉しか浮かばない。改めて真美のスカートを見つめた。彼女のことを好き、だったのだろうか。いや、今さらそんなことを考えても。

 真美が半歩、僕から体を離した。僕は何となく視線を逸らし、無理に理屈っぽい話題を探そうとした。しかし先に真美が口を開く。

「友だち、だよね」

 僕は曖昧に首を振る。縦にも横にも紛らわしく首を振る。また雨が一粒、鼻先を濡らした。

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