文芸船

もういちどカヴァーソング

 テレビから懐かしいフレーズが流れる。ゲストのアイドルが好きな歌手の曲をカヴァーする、という番組で、俺が中学の頃に流行った曲だ。期待していたのだが、曲調はずいぶんポップにアレンジされているし、そもそも歌が下手な子で幻滅してしまう。他人の持ち歌を歌うのは意外に難しいらしい。

 中学生の頃、給食の時間にお昼の放送でしばしばこの曲がかかっていた。もちろん先生方がおすすめしたはずはなく、当時の放送局長だった未来のわがままが原因だ。未来は俺と同じクラスで、女の子のリーダー格だった。五教科の成績はクラス上位でスポーツ万能、ピアノも弾けるし絵を描けば入賞で、その上我が学年三美女の一人とくる。

 これだけ全部そろっているが、欠点は変わり者だったことだ。正義感はやたら強くて、でもちょっと不良っぽくって。そのくせ秀才真面目系とも一緒に笑ってる、そんな奴だ。行動に脈絡がないと言うか、性格分類不可能と言うか。しかし、そこがまた俺たち男子生徒にはかわいいように思えた。そして、このぶっ飛んだ性格のせいで「彼氏」の称号を貰った奴はほとんど二週間で音をあげる。今でもまだあの調子なのだろうか。それともすっかり大人しくなって、知らないうちに結婚どころか子持ちになっているとか。

 考えているうちに、あいつのけたたましい笑い声が聞こえた気がした。肩にかかるかすかに栗色の髪が懐かしかった。首筋に三つ並んだ小さなほくろをもう一度見てみたかった。

 電話の呼び出し音が聞こえる。両親とも留守なことを良いことに、テレビの音量を上げすぎて気づかなかったらしい。俺は慌てて電話をとった。だがなぜか沈黙している。俺はつっけんどんな声でもう一度繰り返した。

「矢本ですが、どちら様ですか」

 すると、受話器から全くの思いがけない台詞が聞こえた。

「あのう、真ちゃ……いえ、真一くんは御在宅でしょうか」

 名前を名乗らないで俺を呼び出す女。覚えはないが、それでも一応は正直に答える。

「私が真一ですが」

 真ちゃん、と一転した明るい声。だが、俺を真ちゃん呼ばわりする女にはやはり心当たりがない。慎重に尋ねると、相手はおずおずと名前を名乗った。

「高野です。中学のときの」

「高野。もしかして、未来?」

 うん、という短い未来の声が甘く耳に届いた。これっきり、俺も未来も沈黙する。ほんの今まで未来のことを考えていたのだ、すぐに言葉が出るわけがない。俺はアイドルの脳天気なトークをぼんやりと聞きながら次の台詞を必死で探す。しかし、未来が先に声を発した。

「真ちゃんもさ、特番の『J-POP Hitカヴァー』、見てたんでしょ? さっきの曲、もちろん覚えてるよね」

「そりゃな。お前、リクエスト無視していっつもこの曲ばっか放送でかけてただろ」

「それで真ちゃんのこと、思い出したの」

「それだけ?」

 言って。すぐ気まずい空気に気づいた。せっかく懐かしさでかけてくれたのに。「それだけ?」はきつい言葉だったかもしれない。少し間をおいてから近況を聞くと、未来は短大を卒業後に北広島の会社に就職して、今は一人暮らしのアパート住まいだという。俺も地元の小樽商大に在学中で、会おうと思えばすぐの距離だ。

「せっかくだからさ、俺たちで同窓会の企画しようぜ。お互い地元でくすぶってるわけだしさ、企画するんなら良い機会だろ」

「くすぶってて悪うござんしたね」

 即座に返ってきた未来の昔馴染んだ軽口。あいつの悪戯っぽい目が懐かしい。

「ほんとにどうだ? 来週の日曜十二時、駅前に来てよ。良い?」

「あ……うん! じゃ、懐かしの思い出話はその日に縁側でこぶ茶でもすすりながら」

「なぜに縁側とこぶ茶?」

「いやあ、縁側で思い出話してるじっちゃんばっちゃんの画像が頭に浮かんだ」

「めっちゃまんまのパターンだよな」

「うるっさい! もーどうしていっつも変に冷静なわけ? 本気であいっ変わらずだね」

 未来のけたたましい笑い声が耳を刺してくる。俺たちの六年間のブランクは一瞬で吹っ飛んでいた。

「よし、あとは来週のお楽しみでな!」

「了解! じゃね」

 電話が切れて。俺はしばらくの間、そのまま受話器を握っていた。


 電話から一週間はすぐだった。十時に起きて、慌てて身なりを整える。鏡を見て髭のそり残しを丁寧にチェックしながら、「未来ごとき」のために必死でめかしこんでいる自分が何となく滑稽に思えた。

 ジーンズに足を通しながら、未来のファッションをふと思った。メイクをきっちりしたすっかり大人の未来が頭に浮かぶ。しかし、なぜか服装は中学の制服のままだ。あいつのジャージ姿はもちろん、ジーンズスタイルやワンピースだって見たこともある。それでもやはり俺の中で未来は制服なのだ。悪い趣味の変態でもあるまいし、と思う。だがまあ、あいつが思ってる俺もチェックのスラックスに校章入りネクタイを下げた少年かもしれない。

 ここは悪戯してスーツで行ってやろうかな、とも思う。でもすぐに考えを改めた。無茶だったけど、口喧嘩ばかりだったけれど。それでも最高に面白かった頃の俺たちに戻りたかった。

 俺のいたクラスは先生方の鼻つまみだった。クラス平均点は学年ぶっちぎりの最低で、持ち物検査をすれば没収品の山、他校に喧嘩を売りに行く女子もいるし、校内の体育大会ではラフプレーの数で負けになる。だが、なぜかいじめはなかったし、文化祭の歌はいやに張り切って歌う。何となく「俺たちゃ天下の三年二組!」という妙な自負心を持っていたりして、荒れたクラスと言うよりも変なクラスと言われる方がぴったりだった。

 そんなクラスで、最後に学級委員をやっていたのが自他ともに認める「最悪で最高のコンビ」こと、俺と未来だ。俺のからかいと未来の怒鳴り声はクラスのチャイム同然だったし、他にも必ず一日一回は「真ちゃん!」というきんきん声と俺の逃げ回る足音が教室の中に響く。そうかと思えば学級委員の仕事を放り出した未来を俺が追いかけ回して未来がけたたましい声で笑っている。そんな毎日の繰り返しが俺たちだった。

 ここまで常にどたばたなのに、俺たち二人で仕上げた仕事は他のクラスの見本にされるほど勝っていた。それもなぜか、二人の協力が必須の面倒な仕事で、だ。今ではどうやって進めたのか思い出せないが、とにかくあいつとの共同作業が妙にやりやすかったことだけは覚えている。だから同窓会も絶対に実現できるに決まっている、そんな自信を今日も持っていた。

 用意を揃えると、愛車のミラを運転して駅前に行く。こいつは走り始めて十年目というかなりの年季物で、大学の後輩からは「もしウイスキーならビンテージ物っすね」なんぞとからかわれたといういわくつきだ。

 駅前の駐車場に車を止めた。小樽は観光都市として再生したと言われているが、こうして駅前に立つと、その言葉の空虚さは明らかだ。観光客は直行で三角市場と運河に行くばかりで、駅前をぶらぶらしている観光客の姿は少ない。少し先にある産業会館も大口のテナントだったスーパーが倒産したせいで、一番元気なテナントが郵便局という惨状だ。それでも高校時代によく通ったラーメン屋は健在で、最近は新店舗を幾つも出店している。未来は札幌の高校に進学して向こうの寮に入ったから、蔵屋に行ったことはないかもしれない。今日の帰りにでも連れて行ってやろうかと思う。

 もう約束の時間なのだが、未来らしき姿が見あたらない。俺は駅の中に入ってまた未来の姿を探したが、それでもやはり見つからない。お互い変わりすぎて気がついていないのだろうか、そんな不安が頭をよぎる。

 ふと、駅の壁にずらりとぶら下げられたガラスの石油ランプの行列に目がいった。そういえば昔、あの石油ランプを取ろうなんて未来にけしかけられ、壁を登っているうちに駅員に捕まったんだった。

 と、いつの間にか俺の斜め前に同い年ぐらいの女が立っていた。ボディラインにぴっちりのジーンズに鎖を模した太いベルトをあしらい、シルバーの小さなピアスが印象的だ。俺が普段つきあっている友達とは明らかに違うタイプに見える。でも、かすかに栗色の髪と首筋のほくろ。そして何と言っても、石油ランプを見つめてにやにやするような奴。

「なーに独りでにやにやしてんだよ」

 振り向いた未来は思いっきりな笑顔で真ちゃん、と怒鳴る。そして頰を赤くして俺を睨むと、いきなり俺の鼻に拳骨を入れた。

「てめっ! いきなり鼻の頭叩くか? ふつう」

「えー、この高さだったら頭ごーん! ってやれたのにい」

「へっへー、もうチビとは言わせねえ」

「いや、平均以下だから相変わらずのチビ」

 ここまで言って、未来は急に黙り込むと今度は穏やかに微笑んだ。

「何だよ」

「会えたなあ、って」

 穏やかな未来を見て、俺は何だか意味もなく吹き出してしまった。それに。悪口軽口が次々と溢れ出る、この感覚が本当に嬉しくて。

「あ、ひっどい。何でそんな笑うわけ」

「俺だって嬉しいんだよ。ここまで上手くいくなんて、何だかおかしくってさあ」

 すると未来も一緒になって笑い出した。周りが妙な視線を送っていたけれど、そんなのは気にならなかった。やっと笑いが止まると、俺は急に空腹に気づいた。十時起きで朝食抜きなのだから当然の話だ。視線を巡らせると、ちょうど都合よくハンバーガー店が開いている。

「未来、ロッテリア入ろうぜ」

「今日は日曜日だから値段倍額の日だよ」

「倍額じゃなくて普通日が半額なだけだろ」

「いーや、味と価格が半額でちょうどぴったりの釣り合いだよ。だから日曜日は倍額デー。だ・け・ど、真ちゃんのたってのお願い、心優しい未来様が聞き入れて進ぜよう」

「はいはいありがと。もちろんワリカンな」

「ほー。じゃ、むちゃくちゃ食べて真ちゃんに余計に払わせよっと」

 あの頃と同じ莫迦なやりとりをしながら店に入ると、俺たちは二人ともセットものを頼んで空揚げボールを追加した。ハンバーガーを食べ、冗談を飛ばしつつお互い友だちの情報を交換する。とくに女の子たちの近況は俺には初耳の話ばかりだった。漫画家目指して頑張ってるなんてすごいのもいるし、大企業でばりばりの奴もいる。ぼうっとしてたあいつは子持ちだって言うし、結婚と離婚を一年間で通過した豪傑もいる。そうかと思えば行方不明もいるし、就職先が潰れたのもいればフリーターも結構いる。

 色々いたが、何となく苦労している話が多いようだった。だからこそ、俺はなおさらみんなの元気づけに同窓会をやりたくなった。しかし、俺が同窓会の計画を話しだすと、未来は手にしていたコーラを乱暴にテーブルに置いてぽつっ、と言葉を落とした。

「真ちゃん、やめよ。集められないよ、きっと」

「でも連絡さえすれば」

「夢だよ」

「そんなやってみないうちにさあ」

「現実、見ようよ」

 凍った未来の視線。その視線に俺は。俺は嫌なことを思い出した。こんなに楽しいんだから。今まで上手く忘れかけていたんだから。だから思い出したくなかったこと。でも蘇った感情を無視できるほど、俺は大人になれなくて。

「あのときも同じ口調でやったんだよな、仲間身代わりにするのさ」

 未来は口を開けて目を泳がせる。それでも俺はさらに言葉を重ねる。

「かわいいヒトラー」

 あの頃の、俺たち身内だけで通じていたあだ名に未来は小さく肩をふるわせた。

 俺たちの中学は生徒への締めつけが厳しい学校だった。先生方さえ「この校則、何であるのかわからない」なんて言うほどだった。もちろん締めつけが緩むことはなかった。完全に硬直化した校則のせいで、普通なら褒められそうなことまでできなかったほどだ。

 未来はそんな学校をひっくり返そうという反対グループのリーダー格だった。初めの頃の未来は正義の革命家気取りで、いっぱしの正論で先生方を言い負かしては笑っていた。痛快なやり手の政治家のようで、未来の片腕をやっていた俺は自慢だった。でも、半年が過ぎた頃になると、次第に裏からの悪いやり方が多くなっていった。でも、リーダーが捕まるわけにはいかないため、いつの頃からか未来は尻尾切りを平気でやるようになっていった。周りが未来を「かわいいヒトラー」と呼び始めたのもその頃からだ。

 卒業間近の、最後の作戦の日。卒業式の準備を滅茶苦茶にするよう、後輩の女の子に迫っていた。でも、それがばれて未来も追い詰められて、そして。俺を残して逃げた。

「ごめん」

「卒業前に言って欲しかった。こんな、六年も経ってからじゃなくってさ」

 子どもの悪戯だった。だが、本当の片腕だった俺まで切り捨てられた気持ち。お互い信頼できる、最高の相棒のつもりだった俺。俺は成績に余裕があったから何の影響もなかったが、他の何人かは内申点で脅されたらしい。精神的に追い詰められたせいで志望校を落ちたとしか思えない奴もいたのだ。もう何年も経った今になって恨み言を言う気はない。でもしこりは未だ残ったままだ。

 未来は落ち着かなく爪を噛み、とっさの思いつきとしか思えない無茶なことを言った。

「真ちゃん彼女いないんでしょ? 私も」

 俺は未来の台詞を途中で遮る。また逃げようとしているこいつが哀しかった。好きだった人が卑怯な態度にでることはつらかった。

「てめえの都合ばっか言ってんじゃねえよ」

「真ちゃん、ごめん」

 未来の言葉はあまりに息苦しくて、俺は自分でも嫌なほど冷めた声で話を打ち切った。

「遅すぎた。高野、今日限りだ。お前と会うのは今日限りだ」

「真ちゃん!」

「その呼び方もやめてくれ。俺は矢本だ」

 未来は泣きそうなくせに無理して笑った。

「ねえ、今日だけ」


 観光の中心だけあって、ガス灯の並ぶ運河は駅前と同じ街とは思えない人出だった。

 飾られた鯱を指さす子ども。夢中でキャンバスに色を載せる若者。ゆっくりと散策する老夫婦。見つめあって微笑むカップルたち。そんな幸せそうな人たちの中を、俺たち贋物のカップルが歩いていた。風景を指さして微笑み、ゆっくりと同じ歩調で腕をからませて歩く。俺たちはいかにも型にはまった、とくに未来の美貌を見れば男たちには羨望のカップルだった。だが、俺の腕は硬いままだ。拳を握り、指を絡ませられないようにしていた。

 ベンチに座っていると、目の前に二匹の子犬が飛び出してきた。俺はぼんやりとじゃれあうその二匹を黙って見つめる。そっと未来に目をやると、相変わらず頑なに彼女のふりを演じながらも、子犬たちを羨ましそうに眺めていることに気づいた。それでも、俺の凍った腕が緩むことはなかった。

 夕闇が迫っていた。俺たちは駅への坂道をのろのろ登り、遂に俺の車の前に着いた。

「今日は実家に泊まるんだよな。送るよ」

 未来は黙ってうなずき、助手席にそっと座る。車が動きだすと、名残惜しそうに窓の外を眺める。だから最後に俺はもう一度、運河沿いを走ってやることにした。

 とにかく、この狭い軽四車の中で黙っているのは正直言って辛かった。俺はスマホをオーディオとリンクさせて適当に曲を開始する。だが前奏を聴いた途端に俺は後悔した。でも、停止ボタンに手が伸ばせなかった。

 オーディオは残酷に演奏を進めていく。今の未来にだけは聴かせたくない曲が、「たかが軽薄J-POP」なんて慰めが通じるわけのない、あのフレーズが始まる。ドラムが刻む、スロービートに乗ってアルトの声が別れを歌う。再び会うことのない、だからこそ会いたい友を想う気持ちを歌い続ける。

 赤信号にひっかかった。やっと俺は停止ボタンを押し、そっと未来を盗み見た。もう曲は止まっているのに。同じフレーズを口ずさむ未来がいた。

 泣いていた。

 どうしたら良いのかわからず、俺は車を再び運河方面に向けた。適当に場所を探して路上に駐車すると、未来を連れて車を降りた。外はもう暗く、ガス灯の黄色い明かりが目にしみた。また失敗したと思う。これでは未来の涙が止まるはずはない。ただの流行の歌詞だったけれど、今の未来にはあまりに酷すぎた。俺にとってさえ苦行に思えたほどだ。それなのに、俺はもっとつらくなる場所に来てしまったのだ。

 未来がやけに小さく見えた。中学生の、純粋すぎたあの頃の未来が泣いていた。未来の目の前にハンカチを突き出す。泣きじゃくる未来の目の下を拭ってやる。

「もう泣くなよ」

 言った途端。未来は俺の胸に顔を埋めた。

「ねえ、奇跡って起きないかな」

「起きないから奇跡、って言うんだ」

 つらくあたりすぎだと思う。たかが子どもの頃の古い話なことはわかっている。だが、子どもの頃だからこそ、将来の道筋が決まる頃だったからこそ。

「これ以上はだめだ」

 未来は黙ってうなずいた。不思議なほど素直な未来。もう一度うなずいて俺を見つめる。ふと、今までのきつい気持ちが緩んだ。合格した地元一の進学校を蹴ってまでして、市外の高校に進学した理由が今、やっとわかったように思えた。今日初めて、本当の未来の心が見えた気がした。

「良いさ、もう。お前、やっぱ変わったよ。泣く奴じゃなかったしさ。少しは人間らしくなったんじゃないか?」

 未来は意外そうな表情で俺を見上げる。俺はうなずくと、視線を外して言った。

「今日で全部おしまい。最初からやり直し」

「私のこと、許してくれるの?」

 未来の言葉に、俺は思わず表情を曇らせる。

「許すわけにいかない。進学失敗だっていたんだから。だからお前を彼女にはできない」

「良いの。逢ってくれるんなら。友だちでいてくれるだけで、それだけで良いの」

 俺は大きく息を吸って無理矢理に笑顔を向け、ラーメンでも食べるか、と呼びかけた。すると未来も石段に飛び上がって答える。

「あたしは断然、塩が良いな」

「あの店は醤油が一番なんだよ」

「実は他は食べたことないんじゃないの?」

 元の調子で軽口を始めた未来に驚く。だが未来はすぐに泣きかけの顔で俺に手を伸ばしてきた。手を重ねると、未来はきつく握り返した。

「始めっからやり直しなんだよ、ね?」

 不安そうに確認する未来に俺は片目をつぶって応える。出会いからのやり直しは、新しい「最悪で最高のコンビ」の俺たちが歌う、幼かった俺たちへのカヴァーソングだ。俺たちは懐かしい歌を口ずさみながらゆっくりと歩き始めた。

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