文芸船

うるわしのボディ

「で? あんた本気でこのか弱い薄幸の少女な私をさ、あの飢えた狼の群に水着でさらそうって言うわけ?」

 夏美は『ミス大樽高校コンテスト募集要項』を俺の顔に叩きつけ、俺の首を締め上げながら怒鳴った。俺たちの大樽高校は、例年「海浜祭」という学校祭もどきの海浜遠足がある。そこで毎年恒例となったミスコンは、水着審査はもちろん賞金もばっちりという超高校級のイベントだ。俺は夏美の腕をふりほどくと、我が部の会計帳簿を机の上に叩き付けた。

「いーか、夏美。今は夏だ。これからまだ秋、冬が残っているんだ。そして今の部の会計状況はだ!」

 夏美は帳簿をぱらぱらっとめくり、軽い調子で言い放つ。

「いやー、今の世の中消費税があるのにさ、残高がきっちりゼロ円になってるって清々しいよね」

 こいつにまともな返事を求めた俺が莫迦だった。いやそもそも、俺の所属する現遊会こと「現代史遊戯創造会」。名前からして胡散臭い匂いが漂ってくる。こんな「現代までの歴史を学ぶ中で遊戯する」なるわけのわからん趣旨の部を率いる夏美がまともなわけがないわけで。とは言え、先代会長の手練手管で入部させられた俺の無駄な方向に高いプライドは金庫番魂に火を付けていた。

「俺が言いたいのはだ! この八月から来年度、俺たちの卒業まで部費が一円もないってことなんだよ!」

「部費の管理って副会長のあんたじゃん。何やってたのさ」

「それは特別予算請求とゆー名目で部費を強奪しまくった会長さん、あんたに訊きたいね」

「私、そんな無茶した?」

「アフリカ史の研究のためアフリカのお面と武器を直輸入。日本の大衆食文化史研究のためにファミレス喰い歩き予算。十六世紀に出版されたばったもんの魔道書三冊セット」

「どこがおかしいの?」

「全てがおかしいわい!」

 俺は思いっきり机をだん! と叩く。さすがの夏美も肩をすくませ、それでも無茶を言い足した。

「ねえ、竜ちゃん。生徒会の予算からちょろちょろっ、と交渉とか、昔の隠し予算とかさあ」

「隠し予算は先代会長の卒業時に今までの迷惑代ってことで没収された。あと、生徒会の方は俺も色々帳簿操作して引っ張ったけど、これ以上やると虚偽申請の疑惑で会計から査察が入るぞ」

 俺は俯いてしまった夏美の説得にかかった。

「そこでだ。この失敗を『ミス大樽高校』の賞金で返済してな、後輩にびしっと示しをつけてくれ、というわけだ」

「でもー、水着審査なんてやだしー、おまけに賞金三万円が部にもってかれるの悔しいし」

「嫌ならバイト費で弁償しろ」

 俺のぴしゃりとした台詞に、夏美は恨みがましい視線で応える。

「あんたさあ、一応仮にも私の彼氏なのよ? カ・レ・シ。『俺の女の体は見せ物じゃねえ!』ぐらいのさあ」

「お前の場合、飯をおごって貰うときと荷物持ちさせるときと傘忘れたときだけ彼女面するだけだろーが」

 夏美はぶうっと頰を膨らませ、それでも大きくうなずいた。

「わかった! 大樽高校無冠の美女、木原夏美ちゃんが卒業前に一発大花火挙げてやろうじゃないの!」

 夏美は拳を振り上げて見せる。俺はそれを確認して、すぐに打ち合わせ通りに右手を挙げた。

「先輩、オッケーですか?」

 いきなり部室のドアが開き、俺の合図を見たかわいい後輩女子諸君が一気になだれ込む。

「夏美が出てくれるそうだ。磨いてやってくれや」

 俺の言葉に、下級生の女子がきゃー、と悦びの声を挙げる。と、夏美は顔色を変えた。

「竜ちゃん、これってどーゆーこと?」

「お前にミスコン預けたら何やらかすかわかんないから、スタイリスト役をこいつらにやらせる。素材は良いんだからあとはこいつらに任せれば大丈夫大丈夫」

「あ・ん・た・はこいつらの本性がわかってなーいっ!」

「だろーなー。でもお前の本性よりはましだから任せるんだよ」

 俺はすがりつく夏美を振り払い、そそくさと部室を後にした。ま、「着っせ替え着っせ替え楽しーなっ♡」とゆー女子部員の歌声にゃちょーっと気がひけたけど、さ。

 俺は夏美への同情を軽く放り捨て、残った男子部員に情報収集を命令した。うちの部員は去年の先輩がイっちゃった人だったおかげでスパイもどきのお仕事はやたらと得意なのである。んで。汚職の歴史を勉強して将来は立派な金持ち政治家を目指しているとゆー、うちの部員にありがちな歪み系の二年生、大岸が悲鳴を上げて戻ってきた。

「中井先輩、票まとめんの、かなり大変っすよ」

「あいつの評判、そんなにきついか?」

「『俺はあいつのおかげで女は顔じゃないと知った』なんて言って同情の視線を浴びせられるんっすから。どうするんっすか」

「まあ、そりゃあご苦労さんだった」

「はっきり言って夏美先輩の悪行を知らない一年生以外は難しいっすよ。買収するにもその資金がないし」

 あっさりと買収という言葉がさらっと出る辺り、さすがは我が後輩なのである。

「でも、あいつのボディを目にしたら変わると思うけど?」

「そりゃまあ、先輩はルックスのためだけに平気で人生を棒に振れる人ですから」

 俺のじと目に大岸は慌てて口を閉じた。俺はじっと考え、禁断のアイディアを提示する。

「なあ、女っ気がなくって人数の多い部活ってどこだ?」

「えーと、柔道部、応援団、将棋部」

「落とせるな」

 俺の呟きに大岸は首を傾げる。俺は悪魔の笑みを浮かべると、水戸黄門の越後屋そちも悪よのう、のノリで耳元に囁いた。

「夏美に各部を回らせるんだよ、手料理持たせて」

「夏美先輩の料理って、味とかいう以前に、食中毒にならないってだけの魔界のサバイバル料理、悪魔の秘薬っすよね」

「心配するな、俺が作ったもんを持たせれば大丈夫」

 ぐいっと胸を張った俺に大岸はしみじみと言った。

「彼女の手料理とゆー甘い夢は、先輩の中にはないんですね」

 夏美に弁当を作ってやったことは秘密にしておくよう、俺は固く誓う。そんな俺の動揺を知ってか知らずか、大岸はさらに悪いニュースを囁いた。

「でもですね、対抗馬もきついっすよ。みんなかわいくって」

「そりゃ夏美以外にかわいいのが全校に全くいないわけじゃないし。けど、ルックスだけなら勝てる娘はいないはずだぞ」

 大岸は考え込み、そして独り大きくうなずいて話をまとめた。

「とにかく、夏美先輩の器に期待しましょう」

 ぶっ壊れた呪いの器にどーやって期待を持てと言うんだか。俺は何となく背筋に嫌な感覚が走ったように思った。


 ででん! と威圧する旧字体の大看板。巨大な団旗と古びた校旗。校門の外にまで響く猛々しい漢どもの発声。そう、言わずと知れた時代無視な化石集団、応援団の団室である。そこに一人、非常識にでっかい弁当箱と、お茶入り一升瓶をぶら下げたショートカットの見目麗しい美少女。これまた言わずと知れた迷惑核弾頭娘、夏美ちゃんである。

「たーのもーう!」

 夏美の通る声に、ドアがぎぎいっ、と開いた。ドアを開けたのは一年生だが、髭を伸ばしてオヤジ臭さとガキ臭さが混じってなんともシュールな面構えだ。

「どのような御用件でしょうか、押忍!」

 いかにも応援団らしい挨拶だが、夏美は動じる気配もない。

「今度ミスコンに出場する木原夏美ですっ! よろしく!」

 言っていきなり手を握る。途端、彼は頰を紅潮させてドアを全開いらっしゃいませ体勢になった。

「あ、お邪魔しますっ!」

 ぶりっこ態度で体を滑り込ませ、慎重に男たちを見回す。

「おべんとみんなに作って来たんだけど」

「え、俺たちに、っすか?」

「そうそ。食べて食べて」

 夏美が広げた学習机サイズの弁当には色とりどりの料理が所狭しと詰め込んである。団員たちは息を飲んで目を輝かせた。

 と、夏美の手の平にくっきりと残っている鬱血の跡を団長が目ざとく見つけた。

「その手についた跡は? 何かを縛ったような」

「え? これはそのー、料理中に頑張りすぎて失敗しただけ!」

 夏美は慌てて最大限のかわいい声で答える。だが、夏美の内心は穏やかではない。

(竜ちゃん縛って転がしてあるの、ばれないよなー)

 竜二最大の誤算。「俺が代わりに料理を作る」という言葉に夏美が素直に従うと思った彼は間抜けである。だから夏美が持ってきた弁当は、当然夏美の手による悪魔の料理だ。夏美自身は竜二提案の宣伝活動を改善したつもりなのだが、彼女がアレンジして物事が騒動にならなかった試しはない。だが、何も知らぬ団員たちは一斉に弁当箱に飛びついた。

「お、旨いっす旨いっす!」

 男たちは大食い勝負で鍛えた胃袋へ次々と「料理もどき」を放り込んでいく。そして遂に弁当箱も一升瓶も空になった。

「いやあ、こんなに喜んでくれるとぉ、夏美、嬉しいな♡」

「俺らは団室に訪ねて来てくれただけで感動だよ」

「いやあ、特製料理にして来た甲斐があってよかった」

「特製?」

 団長は夏美の言葉に異様な違和感を憶えた。と、いきなり体に力が溢れる、いや、暴れたくなる!

「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

「押ォォォォォォォォォォォォォォォ忍!」

「フレェェェェェェェェェェェェェェッ!」

 妙な雄叫びが部屋中に広がり、そして団長は叫びだす。

「諸君! 我らが母校を愛しているかっ!」

「押忍!」

「我が校の生徒は母校を愛しているかっ!」

「押忍!」

 このやりとりに、再び夏美が割って入る。

「ねえ、この間の朝礼でさ、校長が校歌間違いまくってたよ」

「なにいいいいいいっ! それは本当か!」

「ほんとほんと」

 夏美の軽い返事に、応援団員は一つの火の玉と化した。

「校長が校歌を忘れるとは言語道断! 我ら応援団が天誅を加え、唱歌指導を行う!」

「押忍!」「押忍!」「押忍!」「押ォォォォォォ忍!」

 一同整列。鉢巻きたすき掛けの臨戦態勢で目の輝きはイっちまったまま。団長が突撃、と叫ぶ。団室のドアを蹴破り、漢たちは一斉に校長室へ殴り込みをかけに行った。残された夏美は弁当箱を片づけながら独り呟く。

「そういや調理用秘薬って、賞味期限二十年前に切れてたっけ」

 夏美はまーいいや面白かったし、なんぞと呟くと、再び新たな犠牲者の元へ移動を開始した。


「こんちはーっ!」

 からからっ、と乾いた音とともに木の扉が開く。青い畳と舞う柔道着。ここは格技室、柔道部の部室だ。汗を流しながら戸口に立つ同級生に、夏美はにこーっと笑いかける。

「やっほ、応援に来たよ」

 手に持ったタオルで頰を拭ってやる。洗いたての石鹸の匂いが彼の鼻腔をくすぐり、同時に冷静な判断力を奪い去る。

「私ね、ミスコンに出場するんだ。で、自分で売り込みやってるわけ。ほら、こうやってみんなにドリンク用意してきたよ」

 夏美はまたにこっと笑顔を浮かべ、琥珀色のどろりとした液体が入った小瓶をずらりと取り出した。これがまた良い感じに冷えていて、スポーツをやった後には素敵な雰囲気だ。

「ね、みんな大変なんでしょ? これ、絶対に美味しいし、疲れた筋肉が元気になるから。だから飲んで」

「ええ? 後で代金請求とかなしだぜ?」

「私、そーゆーせこい悪事はしない主義」

 夏美の言葉に嘘はない。自覚して悪事を行ったことなど皆無だし、せこい問題で終わることなどあり得ない。要は、その辺の小悪党に絡まれるよりよっぽどたちが悪い。だが、不幸な柔道部諸君の中に彼女の危険性を理解している者は誰一人としていなかった。

「主将、せっかくだからいただきましょうよ」

 二年生の中のお調子者っぽい奴が叫んだ。主将が見回すと、他の部員も練習を止めて主将の許可をもの欲しそうに待っている。主将はまた夏美の顔をじっと見つめた。その笑顔を見る限りでは、悪い企みがあるようには見えない。

「よし、じゃあ一息ついてからまた練習開始するか」

 主将がついに了解を出した。途端、男たちは飲み物に群がってキャップを開け、ぐいぐいっ、と飲む。

「あ、これ蜂蜜入りっすね」

「あと、レモンとシナモンも入ってら。凝ってるよな」

 わいわいと味の批評を始める男たちに、夏美は心からの笑顔を浮かべ、自慢げに解説を加える。

「材料集め、苦労したんだよ。なんてったってローヤルゼリーとラム酒とニガヨモギと草津温泉の源泉とコカとケシとセイタカアワダチソウとベニテングダケにベラドンナ、とびきり奮発富士山噴火口の伝説の霊薬まで入れたもんだからさあ、味と臭いをマスクするのが大変でね」

 一斉に男たちの動きが停止した。しかしドリンク剤は即効性が命。夏美謹製の悪魔の飲料も例外ではなく。

「あ、あ、暑いぞーっ!」

「お、お、俺は無敵だーっ!」

 全員裸体になってボディビル風のポーズをびしっと決める。むさ苦しい「野郎の殿堂」が花開く!

「我らは裸族!」

「裸族!」

「輝く太股ぴくつく胸筋唸る上腕二頭筋は愛の象徴!」

「愛の筋肉は世界を救う!」

「我らは世界の救世主!」

 再びびしっとポーズを決める。そして主将は窓の外を指さした。

「諸君! 夕日に向かって我らの筋肉を讃えよう!」

「おおーっ!」

 叫んで。窓をぶち破ると男たちは一斉に走りだす。夏美は彼らの夕日に照らされた裸体を、顔を隠しつつ指の隙間から覗いてぼそっと呟いた。

「男の水着コンテスト、良いかもなー」


「中井先輩、大丈夫ですか?」

「俺のことより夏美だ! あのバカ止めないと大騒動だぞ!」

「手遅れです」

 体育準備室に転がされていた俺が見つかったのは、みんなが帰宅する十七時半ぎりぎりだった。縄をほどいてもらいみんなの顔を見回しただけで、もはや俺には状況が見当ついてしまう。

「揉み消しできないか?」

「無理っす。応援団が校長先生に一時間以上も校歌歌わせまくりましたし、柔道部は外を全裸で走り回ってますし、将棋部もグラウンドに巨大盤面書いて人間将棋始めてますし。他にも校内で活動していた部活が片っ端から妙なことになってまして」

「こんな一斉に異常事態となると、現遊会がまたやらかしたんだろうって先生方がなだれ込んで来まして」

 俺はがっくりとうなだれる。現遊会の全員がイっちゃってるわけではないのだから。

「で? その元凶娘はどこ行った?」

「家庭科室で魔道書読みながらクッキー焼いてたところを捕獲しました。今は女子部員がお菓子をあげて落ち着かせてます」

 ほとんど猛獣の扱いである。むしろ知恵が回るだけ余計に始末が悪い。だが、俺はそれよりも先のことで頭が痛くなった。

「さあて、これで部費、どうやって確保するんだ?」

「その件でしたら会長から変な提案があったんですが」

 捕まっている人間の言うことである。ましてお元気モードの夏美だ。よっぽど注意しないとろくなことにならない。

「どういう内容だ? 俺はあんまり期待してないけど」

「案外良いと思いますよ? 『ミスター大樽高校コンテスト』を主催して、入場券の販売利益をいただこうという」

 夏美の言うことの割にはモノになりそうな話だ。追い込まれた俺の頭はかりかり、と働いた。

「準備に入ろう。でも夏美にゃ今回の責任取って貰うぞ」


 輝く太陽と打ち寄せる波頭。かき氷が美味しくおっさんたちはビールで酔っ払いBGMはチューブばっかで頭の軽い兄ちゃんはナンパに励みキンチョールは稼ぎに精を出し失恋した奴は膝抱えて線香花火やってる、そんな心暖まる日本の夏である。

 そんなどこにでもある海岸に我らが悪の首領、じゃない素敵なヒロイン夏美の声がでっかく響いた。

「今から『ミスター大樽高校コンテスト』スタートですっ!」

 応える拍手の嵐。イベントに並ぶ生徒の数、なーんと全校生の六割。え? 何でそんなに集まったかって? それはねえ。

「もーっ! そんなじろじろ見るなーっ!」

 一転した夏美の怒鳴り声に笑い声が会場全体に弾ける。夏美はきーっと叫んで足を踏み鳴らした。

 麦わら帽子とアヒルさん型の浮輪に紺色のスクール水着。胸にはでかでかと「現遊会よろしくっ♡」の丸文字。羽織った法被の背中には「打倒! ミスコン」の文字が踊る。うちの下級生の女子がミスターコンテストの司会用に用意したコスチュームなのだが、はっきり言ってイっちゃった人である。だが、俺は事件の罰としてこの姿で学内を走り回らせて観客を強引に動員したのだ。

 さて、その出場者はと言うと。バスケ部、サッカー部、水泳部に陸上部の人気男子をことごとく獲得。これは俺の交渉能力の賜物だ。まあ、一部はどーしても嫌だって言うんで夏美が代行して引きずり込んだ。その方法はさすがにおぞましくて俺の口からはとてもとても。

「やっぱみなさん、ほんっとかっこいいですよねーっ!」

 夏美の呼びかけに、きゃーっと黄色い声が会場から溢れた。舞台の男たちは、夏美が拉致してきた目の焦点が合ってない数人を除けば、爽やかに微笑んで手を振っていたりする。海パン一枚の姿が絵になる彼らを見て、何となく妬けたりしてしまう自分が情けない。

 と、そのとき会場が急にざわめいた。ざわめきは不安を帯びた空気に染まり、そしていきなり会場が真っ二つに割れる!

「押ォォォォォォォォォォォォォォォォォ忍!」

「輝く太股ぴくつく胸筋世界の讃える双帽筋!」

 雄叫びとともに、ぴちぴちの海パンをはいた野郎どもが一斉に舞台めがけて突っ走る。

「なななななななっ! 何なのよあんたらはっ!」

 目つきのイッちまった乱入者どもは一斉に夏美の前にひざまずき、胸筋をぴくぴくさせながら暑苦しい口上を述べ立てた。

「夏美師匠! 我ら応援団と柔道部、あのドリンクと料理の製法を完全に我が物と致しました! その御礼に、我らの愛校心を、輝く筋肉をご披露致します!」

「んなもんいらんわっ!」

「そう遠慮なさらずに。漢の創造する至高の芸術ではありませんか。我らの熱い精神と輝く筋肉美をどうかご観覧下さい!」

「やめーいっ!」

 取り押さえようとしたが、俺たちに押さえられるやわな奴は一人もいない。奴等は一斉に舞台を降りると観客の前に立ち、暑苦しい姿を示しながら校歌を怒鳴りまくる。

「だ、誰か止めてくれぇーっ!」

 俺たちが呆然とする中、観客の悲鳴と野郎どもの歌声だけが涼しげな波打ち際にいつまでも続いていた。なお、俺たちの収益が全て海岸の住人と学校への迷惑料に消えたのは言うまでもない。

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