以前、週刊少年サンデー連載の漫画「月光条例」で男が「はんかくせえ」と怒鳴る場面があり、欄外に言葉の意味が注釈されていた。「はんかくさい」は北海道の方言で、作者の藤田和日郎は旭川出身の漫画家だ。このように、読んでいる小説や漫画に身近な事物が登場すると、妙にうれしく感じてしまう。
北海道だと明記していないが、それとわかる小説が滝本竜彦の「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」だ。最初に読んだとき産業道路という道路が出てきて何だか函館に似ていると思いつつ読み進めたところ、西部地区に教会まで登場した。後日確認してみると、私とほぼ同世代で函館出身の作家であった。かなり荒唐無稽な設定だが内容に深みもあり、映画化も漫画化もされている小説だ。
他には逢空万太の「這いよれ! ニャル子さん」も北海道とは明記していないが、十一巻ではがっかり名所として時計台が出てくるなど明らかに札幌市が舞台となっている。この巻で出てくるデートコースと思しきコースは私も歩いたことがあったので、名前は伏せていてもこの店のことか、このアイスクリームはあの店のことかも、と推測ができて面白い体験となった。
私が北海道出身で好きな漫画家は高橋しんだ。この作者が描く作品の多くは北海道が関わっており、「いいひと。」の主人公は北海道から上京してくるし、「最終兵器彼女」は小樽が舞台で、小樽商大付近から見下ろす場面は実際の街の風景そのままだ。中でも私が好きな作品は「さよなら、パパ。」という短編集で、女子中学生が男友達との幼いいさかいを元に「北海道のパパ」に一人で会いに行くという、ほろ苦くて繊細な青春の風景が魅力的な漫画だと思う。
実在の場所を忠実に描くのも良いが、磨き純化して見せられると感動する。そういった作品が嶽本野ばらの「カフェ小品集」で、小樽の喫茶店「光」の古い建物と伴う空気感を本当よりも美しく描いており最も好きな作品だ。最近読んだ桜庭一樹の「少女七竈と七人の可愛そうな大人」も純化した透明感のある小説だった。舞台は旭川で、二人の高校生が織りなす透明さと凍結感はダイヤモンドダストの舞う北の街ならではの小説だと感じた。
最近は萌え系漫画などで聖地巡りと称して観光資源にしようとする動きもあり、それに対する反対も見られたりする。それらの動きはいずれも地元と外側のやり取りや商業ベースの話が多い。楽しみ方は人それぞれだが、こういった地元の舞台に着目して、観光資源などといった雑音を抜きに、地元民として読み込むことも面白いものだと思う。
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