文芸船

緩やかな飲物

 好きな茶類を挙げると、カモミールティー、紅茶、蕎麦茶、ブラックコーヒー、緑茶の順になる。格好をつけたり他人に逆らうつもりは毛頭無いのだが、少し偏った嗜好になっている。元々は紅茶をよく飲んでいたのだが、夜に飲むとカフェインのせいで寝つきが悪くなってしまうため、いつの頃からかカモミールやレモングラスなどのハーブティーを好んで飲むようになった。素直に日本茶に行けば良かったような気もするのだが、どうも和食や和菓子の印象が強かったためと、ハーブティーの刺激的な香りが気に入ってしまったのだ。

 元々が香り好きな体質だったのか、ハーブティーに限らず茶類は香りの強いものに魅かれてしまう。そうは言っても味の要素も重要だ。私は甘いお菓子もコーラも嫌いではないが、上記のような茶類は甘くない方が好きだ。そんなわけで、コーヒーもブラック限定になってしまっている。実際、職場ではよく缶コーヒーを買って飲むのだが、ほぼ全てブラックコーヒーだ。

 蕎麦茶や緑茶のような日本の茶類と比較して海外、とくにヨーロッパから移入してきた茶類は、砂糖やミルクを代表として様々なものを加えて飲まれることが多い。ウィンナーコーヒーやロシアンティー辺りは序の口で、卵の黄身を加えるエッグコーヒー辺りになると躊躇する人も多いだろうと思う。それに比べ、日本の茶類は淹れたままで飲まない方が珍しいぐらいだ。実際、冷茶が広く飲まれるようになったのもここ十年ほどの現象だと思う。

 一方で、酒類については日本人は色々な物を加えて飲む方を好むようだ。ウィスキーは水割りにする人が大多数だし、焼酎も烏龍茶やジュースで割る人が多い。宴会の出来る居酒屋のメニューで酎ハイの無い店は少ないだろう。伝統的なもので見ても、河豚のひれ酒や梅酒を代表として色々なものが見られる。珍しいところでは、鹿の袋角を漬けた酒などもある。

 この両者で共通していることは、刺激的で濃厚なものを避けるようにしていることだ。日本人は他民族と比較して酒に弱いためもあるだろうが、味や香りも緩やかなものを好んでいるように思える。実際、紅茶でもアールグレイのような香りの強い茶葉は、紅茶をあまり飲んでいない人には香りが強すぎると言われることも多い。

 酒にしろお茶にしろ、飲物は交際の場において重要な小物として働いている。だが、それは一緒に飲む場のきっかけ作りであり、それ自体が目的になることは少ない。そういう面では、自己主張の強い飲物は、自己主張の強い仲人のようなものなのかもしれない。実際、上記のようなきっかけ作り以外の目的を考えると、日本の茶類は水代わりと言っても過言ではないように思う。だがその一方で、水杯や水臭いなど、水という言葉には冷淡な印象もあり、水は茶類の代わりには到底なりえないだろう。

 その果たしている機能と比較して、日本の茶類は粗末な扱いを受けている気がする。日本は謙譲の文化がある国だが、それにしても粗茶という言い方は随分な物言いだと思う。だが、その粗末な扱いを受けつつもしぶとく生き延び、今ではコンビニエンスストアの飲物で主力商品になっている緑茶類は大した底力だと思う。近年の緑茶飲料の中には化学調味料の一種であるグルタミン酸ナトリウムを添加したものも見られるが、ほとんどは相変わらずの単体の味である。その朴訥なまでの単純さには小さな尊敬すら抱いてしまう。私がカモミールティーを飲んでいるのは、日本茶の控えめで朴訥な実直さが苦手だからかもしれない。

 それでも、ときには日本茶を見習ってみようと思う。筆を置いたら、緑茶を淹れてみようか。

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