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あからさまに馬鹿馬鹿しいお笑いを、というファンタジー転生物のライトノベル。出てくるキャラクター全てが欠陥品の問題児ばかりで、それらが暴走しながらも一応の事件を解決していく。主人公の渾名が「クズ馬」だの「カス馬」だのという時点で肩の力が抜ける。
不思議な空気感のある怪異談。悲鳴が聞こえるホラーではなく、じっとりとした恐怖や怪異を美しく描写している。恨みよりは庶民の哀しみと憐れみに視点を置いており、読後は静かな気持ちになれる短編集。作者は乙一の別名義とのこと。
欧州の架空の国・ソヴュール王国を舞台に、謎を秘めた美少女のヴィクトリカと日本人留学生の久城が事件の謎解きをしていく。発刊時の分類はミステリーとあるが、ミステリー風ボーイ・ミーツ・ガールの冒険小説として読んだ方が楽しい。ヴィクトリカの内心と久城の真摯な思い、怪奇趣味の舞台に浸かりきって読める。8巻完結で、電子書籍では表紙に漫画系イラストのついた版もある。現在は第2部が開始。
魔王と勇者の設定はありがちだが、魔王も勇者も力を失って現代日本でフリーター、平凡なOLとして働くという設定が面白い。その設定も本格的に日常を描いており、コメディ系作品ながらもむしろ、テレビのトレンディドラマより現代を描けている希有なライトノベル。都会に住む若者が地に足の着いた状態で迷う姿は、近年の私小説よりも一面、リアリティがある。
年老いた女剣士が語る悲恋の表題作のほか、英雄物ではなく人情に焦点を当てた時代物の短編集。自然描写と日常感が現代に蘇る。町人、盗人、武家と階層は様々ながら登場する気丈な女性たちが魅力的。女性に視点を当てつつも、恋愛や日常の雑事に埋もれるような作品ではなく、凛としながら温かみのある文体にも惹かれる。
Webサイトの読書感想を縁にして繋がった2人がリアルの世界で出会う。聴覚障害を持つ女性と健常者の男性の不器用で爽やかな恋愛小説。障害を扱いながらもいわゆる「泣ける小説」の形にはまらず、無理に同情を誘う中身ではないところが良い。
旭川を舞台に2人の美少女と美少年が成長していく。周辺の大人たちの不器用さと2人の透明さ、孤独な空気感を描出した文体、言葉は酔いそうになるほどに秀逸。孤独さは境遇のみならず2人の独特な感性にもよるものなので、その感性を頭から否定せず、少しフラットな感覚で読み進めると読みやすい気がする。
目立たない同級生の女子が吸血鬼になりたいと言い「僕」はその奇妙な実験に協力を始めた。死を認識した青春像。ライトノベル的な遊びの描写と文芸的な内省の描写のアンバランスに荒削りさを感じるが、強く訴えてくる力のある作品。性的な描写が幾つか見られるが、この作品の場合には少し邪魔な感じもした。
山間の雪沼近隣にある寂れた街を舞台とした穏やかな人間模様。過ぎ去った時代と現代を、鋭さよりも優しさで広げてみせてくれる。短編連作で、微かに各作品間につながりがあるので掲載順に読むと良い。事件と言えるほどでもない、ほんの小さな日常の揺れを描いているが、絵画で言えば淡彩画のような心地よさが感じられる。
「マム」の統治する惑星に住む探偵の冒険と、地球の模造惑星を調査する科学者、そして突如恋人を喪った男の苦悩という3つの謎が交互に進んでいく。SFミステリの体裁だが、徹底した男性向け推理という終わり方ではなく、最後のロマンチックな展開が秀逸。
夜を徹して80キロを歩く高校3年生最後の行事「歩行祭」を通して、生徒たちが互いの知らない面、抱えていた問題に対峙していく。単純なスポーツ物とは違う、少し内向的な爽やかさの青春小説。初めは歩行が続くということで退屈しそうな印象だが、会話だけの単調な内容にならないよう、きちんと構成されているので一読を。
前半で執拗なほどに描かれる反省のない暴力と後半の国家権力による奇妙な矯正、そして回復。寓話や反権力として読みがちだが、最終章で見方が大幅に変わる。定番のSF文学なので若いうちに読む印象も強いが、むしろ若さの勢いで飲み騒ぐことに疲れを感じ始めた年頃にこそお薦め。
麦の豊作を司る狼神ホロと行商人ロレンスの2人が歩む商人の旅。派手な演出を控え、経済サスペンス風味と2人が内側に抱える寂しさと心の揺れを丁寧に描いたファンタジー作品。後半はかなり世帯じみてくるので、ライトノベルファンには好みが分かれるかもしれない。
自分は人魚だと語る少女が転校してきた。現代の問題と対面する「砂糖菓子の弾丸」の儚さが厳しい。ライトノベルの読み易さと文芸物の厳しさを併せ持った作品。開いた最初の文章から強烈な場面が展開する上、ハッピーエンドにはならないので合わない人も多いかも。ただ、私は同作者の直木賞受賞作よりも透明感があって好きな作品。
携帯電話依存症、被害妄想、陰茎強直症などの奇妙な精神科患者が訪れる伊良部総合病院。そこは患者を上回るほど奇人変人の精神科医がいた。現代の社会問題を笑わせてくれる1冊。ライトノベルよりもさらにライトかもしれない。ストレス解消にどうぞ。
現代都会に生きる人達の、内に秘めた記憶と感情を描いた短編連作。洒脱な舞台ながらも乾いた骨太の文章が胸に響く。村上春樹を初めて読むなら「ノルウェイの森」や「神の子どもはみな踊る」といった映画化作品より入りやすいかもしれない。
子ぎつねが桔梗で染めた指で窓を作ると懐かしい母ぎつねの姿が見えた。美しくもの哀しい定番の童話。安房直子作品は不気味な作品も多いが、これは爽やかで物悲しい作品。
自己中毒的にひきこもりの螺旋を堕ちる俺の前に謎の少女・岬が現れ、奇妙な講義が始まる。青春小説だが好き嫌いは分かれる。いわゆる「社会派」として読むべからず。また、漫画化作品ではオタク萌え的な傾向も見えるが、こちら原作は主人公の駄目さ加減が笑える範囲を超しているように思える。黒い青春物、としか言いようが無い。
バリバリロリータファッション少女・桃子とバリバリヤンキー少女・いちごの笑いと爽快な友情のジュブナイル。一見華美で、だが人間の泥臭さがある特有の語り口に引き込まれた。映画版と比べ、桃子は少し斜に構えた印象。また、独特の流麗な文体なので慣れるまでは投げ出さずに読むことが賢明だと思う。
平凡な高校生・山本陽介はチェーンソー男と戦う女子高生・雪崎絵理と出会い、毎夜を浪費するように戦い始める。荒唐無稽な非日常の中、日常の痛みを描いた青春小説。
脳梗塞等で機能を喪い動かなくなった廃用身を切断し、介護や動きやすさを取り戻すという禁忌を通して、老人福祉が抱える強大な負荷の予見と社会の無責任を描く社会派小説。描写の冷静さに凄みがある。
ありふれた日常の中に潜む喪失感を暖かい視線で描く短編集。各作品の題名が印象的で、かつ納得できる。日常作品と言いつつも私小説的に内向的にはなっていないので、私小説嫌いの人でも読みやすい。
校内一の変人・涼宮ハルヒが引き起こす騒動物という一見典型的ライトノベルだが、巻を進むに従いSFの要素が強まる。反リアリズム指向。キャラクター各々が個性的で芝居がかっており、ライトノベル全体の転機になった作品だと思う。
緑の髪を持つ少女と偶然であった青年の恋愛SF作品。作者独特の甘えたような舌足らずな文体がむしろ、作品の苦味を強く感じさせる。悲恋ではあるが「泣ける作品」といった帯ではまとめられない深さがある。
愛や人生を考えさせる世界観の壮大な作品。他の代表作と比べて物語の筋は衝撃的ではないが、視点の大きさに感動する。インドを舞台としていてキリスト教の匂いは薄い。「海と毒薬」「沈黙」といった著名作品ほど衝撃的な事件は起きていないが、むしろ心の動きを追いやすく読みやすい。
読みやすい切ない恋愛小説で清冽な読後感が得られる。明確に「恋愛小説が読みたい」というときには良いと思う。少女漫画の王道的なつくりかもしれない。
失恋とその時間を描いた作品。題名にも見られる独特の詩的な表現や、文体による独特の言葉空間に魅了させられる。詩を読む際のように、論理ではなく感性を中心に置いて読んでいくと心地良い。
耳子の強いまなざしに翻弄される「私」。生命の輝きと児童虐待などの社会問題を同時に扱った、真摯な骨太の小説。谷村志穂の作品の中でも名作だと思うのだが、あまり揚げる人が多くないのが残念。
失恋による死への想いに囚われた2人が偶然出会い、始まる奇妙な共謀。格調高い、精緻で骨太な文体が魅力的。題名の意味は最後まで待つこと。三島由紀夫の作品の中では比較的マイナーだが、割腹事件等の印象が強く食わず嫌いしている人、政治的な文脈でのみ三島由紀夫を見ている人にはむしろ読んでもらいたい。
「勾玉三部作」第2部。古代日本を下敷きにした壮大なファンタジーだが、作中の恋愛部分が魅力的。ライトノベルほどご都合主義ではなく、またイギリスファンタジーとは異なり主人公たちの純真な想いが中心となっている。とくにヒロインの遠子の真摯な姿に魅かれる。
自分をアンドロイドだと信じて止まない少年を中心にした4つの短編で構成される。ライトノベルとして出版されているが、深みのある作品。どうも人気は出なかったようで現在は入手困難。
ニューヨークを舞台にした多様な人間模様の短編集。併録されている「黄色いハンカチーフ」は映画を見ている人ならばあまりの短さに驚くと思う。O.ヘンリーの短編集に近い雰囲気で読み進められるが、もう少し乾いた印象はある。
猫に変身してしまった少年と魅力的な雌猫ジェニィとの出会い。猫の細かい描写と2匹の深い心理に惹きつけられる小説。動物の生態小説としても読めるし、恋愛小説としても読めるし、不思議なファンタジーとしても秀逸。
洒落た恋愛物の印象が強いサガンだが、本作品ではナチス・ドイツのレジスタンス時代を舞台にしており、少し血なま臭い場面もある。反戦小説、恋愛小説という枠を超えた深い長編小説。典型的なフランス映画の悲しみのスタイル。サガンの作品は多く読んでいるが、その中で私が最も好きな小説。
映画「ロード・オブ・ザ・リング」原作。壮大なファンタジーで、映画版では省かれていた詩や静かな場面も印象的。映画は勇ましい部分が息もつかせぬ勢いで続くが、こちらは心の暗部や迷い、また逆にほっとする日常の姿なども大切にしている。まあ、全て映画に押し込んだら4部作を超えたかもしれないけれど。
衣装箪笥に潜ると、その先にはもの言う動物たちが生活する異世界が広がっていた。児童文学ながら「指輪物語」と双璧をなすファンタジー。キリスト教の影響が強いが、敢えてそこは意識しないで読んでしまった方が楽しめると思う。
水の妖精(ウンディーネ)と騎士との悲恋物語。一つ一つの場面がはかなく美しいドイツロマン派の傑作。
「ロボット」という言葉の発端となった戯曲。機械文明と人間の衝突、相克を描いた作品。70年以上前の作品ながら現代や未来へも通じる。ただし一般に思うロボットよりは、人工有機生命体に近いかもしれない。